背反の両立 / 風魔→←政宗

 

小十郎は松永との最終決戦の地に颯爽と現れた政宗の姿に驚いた。 さすがに単身では多数の敵に苦戦を強いられ、 あわや、と言う時に駆けつけた政宗の動きは いつもと変わらぬように思えたが。 「政宗様! お身体は大丈夫なのですか?! 御無理はなさらぬよう…!」 怪我を押してまで人質となった伊達の兵士を取り戻そうとした主を 力づくで止めた本人である小十郎としては気が気ではない。 下手をすると、 松永の策略により負った怪我よりも 身体に負担を掛けてしまったのではないだろうかと気に病んでいた。 政宗は応えの代わりににやりと嗤った。 小十郎の不安を払拭させるように。 「政宗様」 「no problem! 大丈夫だ。通りすがりの忍に施された治療で大分楽になった」 傷そのものが即座に治るなど都合の良い話ではないが、 痛みはなくなっていた。 その場しのぎで誤魔化されただけだとしても 自らの手で片を付けたいと望んでいた政宗には有り難かった。 小十郎は眉間に深い皺を刻む。 「忍が通りすがる、など有り得ないと思いますが。 様子を窺っていたのでは」 「かもな。だがオレを治してくれたのは事実だ」 「武田の忍ですか?」 「NO。だったら顔見りゃわかる。 ah、化けてりゃ別だが、あんなお喋りじゃなかったな。 無口も良いとこで、ありゃ別人だ。」 「無口な…忍?」 その忍に小十郎は心当たりがあった。 まさかとは思うが。 「外見は、どのような?」 「ah? 見た目か? そうだな…目許は兜に隠れてたが 紅い髪が印象的だったが」 それはやはり。 「伝説の…忍…!」 しかしその行動は解せない。 風魔は松永に雇われていたらしく、先の戦いで小十郎の前に立ち塞がった。 その男が何故。 様子を窺う必要などない筈だ。 松永は欲していた政宗の刀を既に手にし、 二人が取り戻しに来るのをむしろ煩わしがっていた。 諦めるのか取り戻しに来るのか気にしていた感じはまるでなかったは筈。 否、伊達が動くようならば風魔を正式に雇う事にする、 と言う事だったのだろうか。 何故なら、 契約後であるならば 戦いの果てに気を失って横たわる政宗の生命を奪わずに済ませる理由がない。 後顧の憂いを絶つ為にも、息の根を止める絶好の機会であったはず。 そうなっていたら小十郎は後悔の有り余って己を呪い殺す事になったであろうが。 「政宗様、よもや毒を盛られたのでは」 「そりゃあねぇな。こうしてピンピンしてるじゃねぇか」 「遅効性と言う可能性も」 「アイツが近づいてきた時オレは意識があった。 顔見知りでもねぇ忍の得体の知れないものを甘んじて受ける気はなかったが アイツは安全なものだと示して見せた」 「それは、どのように」 小十郎の抱いた当然の疑問に 「……っ。」 政宗は息を呑み心持ち頬を朱らめ言葉を詰まらせた。 「あ、 アイツ自身がそれを使ってみせたんだよ」 「忍であればすり替えなど容易いでしょう。 そんな簡単に信じられるなど…!」 諫める小十郎に 「すり替える隙はなかったと思うぜ。 口に含んだ物をオレに―」 咄嗟に反論しかけ、はっと我に返る。 「……………」 「……………っ」 一つきりの眸を真っ直ぐに見つめてくる己の右目から 政宗はいたたまれず視線を逸らした。 「政宗様。 薬、と仰っていましたが… 塗り薬を口に含んだところで安全は確認出来かねる、と思うのですが…?」 「……そうかもな」 「と言うことはよもや、 口移しで飲み薬を?!」 「どっ、どうでも良いだろ! こうして元気になったんだし!」 「良くありません! あの忍、何を思って政宗様にそのような―」 言い掛け、ふと、説明できそうな心情に思い当たる。 心がないならば口移しなどなんでもない事だろう。 だがそれでは政宗の身体を労った理由が見つからない。 単純に、政宗を想って、ならば辻褄は合う。 しかしそうなると。 確かに松永に雇われていたのも事実だろう。 だが、政宗への想いを加味すると、 政宗と小十郎の戦いを観ていた風魔の、 小十郎と戦っていた時の心情はいかばかりか。 「…確かめようはねぇが…」 刃を交える最中、 小十郎は風魔に厳しい言葉を重ねた。 けれど、責めていたのは風魔の方だったかも知れない。 意識を奪わなければ政宗は止められなかった。 だがその政宗はこうして戦線に出てきている。 小十郎の行為は、結果余計な事でしかなく 単に政宗に更なる痛みを与えただけだ。 身体にも、心にも。 「俺よりあの野郎の方が政宗様を尊重してる…とは思いたくはねぇが…」 「どうした小十郎?」 「なんでもありません。」 ともあれ今は諸悪の根源である松永を倒すのみ。 それが終わった後は責任を取るつもりではずっとあるのだ。                 →政宗の事情※15禁ぐらいの風魔×政宗※【時系列的に前】 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 外伝小十郎ストーリーを今更プレイしてはてと思った点。 ※小太郎君の覗き見の理由 ※筆頭普通に松永倒しにこれてるんだから ぶっちゃけ小十郎の行動無駄じゃね? 主君に刃向け損じゃね? から生まれた捏造。 あ。塗り薬も塗られましたよ? 風魔さんの手で。                               【20110505】