混沌よりいずる /劇場版;三成+政宗

 

幾多の軍が入り乱れ
乱闘の様相を呈した関ヶ原の中で
力尽くで道を拓き場所を開けた伊達軍の援護を受け
政宗は三成と一対一の打ち合いを続けていた。

真っ直ぐに、頑なに、打倒政宗を掲げ迫る三成に
苛烈な攻撃を交わし、いなし、そして隙を見逃さずに刀を突き付けながら、
政宗は三成の一途さに苛立ちを覚えた。

自分を仇と狙うのは構わない。
だが、この男は、御膳立てされたこの舞台の裏側を何処まで知り、
関与しているのか。
確かめずにはいられない。

刃が重なりかちかちと鳴る。

「アンタはあの山猿に似てるぜ。
自分に従う兵を人とも思わず
考えることを放棄して
ただ邪魔者を排除するだけしかできねぇところがな!」
「貴様…っ!」
更なる怒りによるものかぐっと力を増した太刀に
政宗は合わせていた刃先を滑らせひらりと跳びずさる。

「おっとsorry、
でかい理想を掲げていただけあの男の方がマシだったな。」
「秀吉様は私を観、労って下さった!
何も知らずに勝手をほざくな!」
「そりゃあアンタの腕っぷしを見込んで重宝したんだろうさ。
民全てに強さを強要するあの男の基準なんてそんなもんだろ」
「煩い! 貴様に秀吉様の何がわかる!」
「あの野郎がしてきた事を見せつけられ
やろうとしている事がわかったからこそ止めたに決まってるだろうが!」

政宗は再び跳躍し右手に握った三本の刀を降り下ろす。
三成は目にも止まらぬ速さで鞘に収めていた刀を抜き剣劇を弾く。

「あの男の理想は果てがねぇ。
戦いが続くことで疲弊する民や兵士の事を微塵も考えていやしねぇ!
何が日ノ本を強い国にする、だ!
全員が自分と同じだと思ってやがってたんなら
ただの大馬鹿野郎じゃねぇか」
「独眼竜…」

近くで二人のやり取りに耳を欹てていた家康は一瞬手を止める。
それは家康も豊臣に対し抱いていた不安と同じであった。
場合が場合であったならば、
秀吉を手にかけていたのは家康だったかも知れない。

「だから止めた。倒した!
いくら理由を取り繕ってもアンタの光を奪った罪は消えねぇのも承知だ。
けれどアンタは、俺が謝ったところで、
死で購ったところで気は晴れるのか?
違うだろう!」

抱いていた虚無を言い当てられ、
三成はギリッと歯噛みをした。

「それを知りながら貴様は…!」
「だが!
痛い。哀しい。苦しい。
そう言って泣き叫ぶなんてのは赤子にだって出来る。
辛くて耐えられなくて暴れて回るなんざ、子供かテメェは!」

まとった雷を叩きつける。
三成は一振りで防いだ。

「この戦乱の世に生まれた奴等はそんなのは幾度も経験した。
アンタみてぇに無二の者を誰かに殺されて亡くした奴だって数えきれねぇ。
誰かの大切な者を奪ったやつも多い。
だけどそいつらはそれを受け入れ
それぞれの明日を目指して前に歩いてるんだ!
それなのにアンタは何一つ視ちゃいねぇ!」
「だからどうした!
私を他の愚劣な者共と一緒にするな!」

「その愚劣と思う奴等以下だろうテメェは!
この茶番も、アンタが凶王と呼ばれるに至った背景も
アンタにはどうでも良いことだろうな。
足許にどんな犠牲があったか知らないまま
自分だけ綺麗なフリして被害者ぶって」
「犠牲など!
この世界が秀吉様を失った、それ以上のものがあるか!」

言葉を重ねても通じない。
それだけ三成にとって秀吉が大切だったのだと知らされ政宗は左目を細めた。

「俺は豊臣秀吉をこの手で倒した事実から逃げる気はねぇ。
あの男を慕っていたアンタが俺を殺したいと思うのも当然だ。
感じた憎悪を好きなだけ俺に向けりゃあいい。
だが俺は、
自分の罪から眼を逸らしたままの野郎に屈する気はさらさらねぇ!」

自分の言葉で力を蓄え、想いをぶちまける。
例え届かなくても。

「アンタは強い。それは認めてやる。
だが魂が伴わなけりゃそんなもんは西海の鬼の要塞以下だ!」

遠くで元就とやりあっていた元親はそれを聴き咎め、
「おいこら独眼竜!
そいつぁどーいう意味でぇ!」
右手を挙げて怒鳴るが
「アンタのそれにゃあ石田より魂がこもってるって意味だ!」
怒鳴り返した政宗のそんな返答に、
「そ、そりゃどーも?」
元親は脱力し思わず礼を言ってしまう。
「You're welcome!」

三成は間合いを詰めよそ見をした政宗を睨み付ける。

「この私があのガラクタ以下だと…?!」
迫る数多の刀の筋を
政宗は致命傷を避けるように反射的に捌く。

「私は、貴様を許さない! 決して!」
「構わねぇさ。赦して欲しいなんて思ってねぇからな。
俺はあの男を野放しにしておけなかった。
アンタがどれだけ心酔してようと、それを知っていたとして、
あの男が目指す未来は許容できるもんじゃなかったぜ!
魔王のオッサンよりは多少マシ程度の未来はな!」
「貴様…!
姦計を用い秀吉様を陥れた卑怯者の分際で!」
「ha? なんだそりゃ」
まるで身に覚えの無い言い掛かりに政宗はキョトンとする。

「しらばっくれるな!
貴様のその細い身体で真っ向から戦って秀吉様を倒せるものか!」
「なっ?!」
「ならば卑劣にも秀吉様を罠にかけたに違いない!」
「…どっちかってーとこっちが仮面の軍師の罠に嵌められた側なんだが。
威張れたもんじゃねぇがな」
「も、申し訳ございません政宗様…」

石田の軍を抑えながら小十郎は身体を小さくする。
それで主に多大な苦労をかけてしまった。

「で? 俺がその仮面の軍師の目を盗んで
山猿相手にどんな罠を仕掛けたってんだ?」
政宗は両手の刀を鞘に収め腕を組んだ。
じっくり聴かせてもらう、との意思表示のように。
改めて訊かれ三成は戸惑う。

秀吉や半兵衛が甘んじて罠に嵌まったと思ったのかと指摘され
二人に対し申し訳ない気持ちが襲ってきた。

秀吉が政宗に嵌められたとするなら、それは。

「そ、そう、色仕掛けだとかだ!」

「………」
「………」
「………」

関ヶ原に響き渡った声に、戦っていた全員の動きが止まった。

「…ぱーどぅん?」
政宗は聞き間違いかと耳に手を当てた。
「それは…面白い説だな」
家康は感心したような声を出す。
「あの秀吉が独眼竜の色気に陥落、ねぇ…
そりゃもしかしたら新しい恋だったのかね」
「ききっ!」
慶次は複雑な表情で頬を掻いた。
わかっているのかいないのか、夢吉は妙に楽しそうだ。

「は、破廉恥でござる!」
「はーい大将落ち着いてー。
しっかしあんた、んなこと言っちゃうってことはまさか
竜の旦那に色気感じちゃってるの?」
幸村を宥めつつ佐助は疑問を投げ掛ける。

三成はカッと顔を朱くした。
羞恥によるものか怒りによるものか自分でもわからないまま。
「いっ、今のは言葉の綾だ!」
「っく…っははっ!」
「何がおかしい伊達政宗!」
腹を抱え笑う政宗に、三成は刀を突きつける。

「ah、否、悪い。アンタが思ったよりも面白いヤツだったもんだからな」
政宗は収めた刀を再びすらりと抜き、じゃきんと構えた。
六本。

「汚い手段を使っていたとしても使っていなくても、
仇は仇、だろ?
…来な」

不敵に嗤う。
その表情に眼を細めた。
三成は自分がそうしたその理由もわからなかった。

ただ少し。ほんの少し。
政宗が自分に向ける感情が変化したように感じた。

自分が政宗に向けた感情も。

 

                                        →深淵よりきたる


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 二回目観てきた勢いで説教小話。鬱陶しくてすみません。 
 三成の秀吉、半兵衛、大谷への盲目っぷりは滅多な事じゃ直んないだろうけれども。

 しかし石田軍の大群見て大谷さんの手腕パねぇと思いました。
 豊臣の残党が多いにしても。

                                        【20110622】