乞い渡り / 家康ルート

 

参考 → 傍らの無相 と 攻略チャート 

小田原の役には参加していなかった家康は
秀吉が政宗を大阪城に連れ帰ってきたと聴き酷く驚いた。

「何故そんな事に」
伊達を無力化した張本人である三成に尋ねたが
「私にわかるものか」
素っ気ない返事しか貰えず、
半兵衛に許可を取り政宗と直接話をしてみる事にした。

三成に穿たれた傷が完全には癒えていない政宗は
寝台の上で上半身だけを起こし、頬杖をついて
物憂げな表情を浮かべ窓の外に視線を向けていた。

儚げに見えるその姿に家康は息を呑む。

その気配に気付いたのか、政宗はゆっくりと入口の方へ顔を向けた。

探るような眸でじっと見つめられ、家康はどきまぎしながら
「独眼竜」
と呼び掛けた。
その声で政宗はああ、と左の眸を瞬かせる。
「家康、か」
そしてふっと表情を和らげた。

「久し振りだな。
噂には聴いていたが随分育ったもんだ」
「そうか。
そう言えば最後に逢ってから随分経っていたな」
戸惑うような表情はそのせいだったのか、と安心する。
声を聴いただけでわかってくれたことにも。

「豊臣についたとは聴いていたが
ナリも大分変わったな。
兜も槍も捨てたって話だったが…宿る力も変わったみてぇだな」
「わかるのか?」
目を丸くする家康に政宗はゆったりと頷く。

「前はオレと同じだったからな。
今は違うってのが何となく」
「そうか。そうだったな」
家康は以前は雷の力を宿していた。政宗と同じく。
だが今は違う。
少し似ているが、宿す力は光。

家康は政宗の傍まで歩み寄った。
傷を看やすくするためか襦袢だけをまとっていて身体の線が見てとれた。
昔はあんなに大きく見えていたのに、
いざこうしてみると
武将にしては薄く、細い。
三成ほどではないが、
あちらは病的にも見えかねない鋭角的な細さだ。

家康はそんな感想を抱いた。

政宗は家康を見上げ、ニヤリと口許を歪める。
覗く犬歯のせいか凶悪な印象すら抱かせる、悪戯めいた笑み。

「光を宿し、素手で戦う、か。
アンタ大猿の後釜でも狙ってんのか?」

家康は言われた言葉に慌てふためいた。

「滅相もない!
そんな事、冗談でも言ってくれるな!
三成の耳に入りでもしたら身の程を知れと殺されかねない!」
「…三成…」
「あ…」

政宗は無意識に傷の上に手を置いた。
つられたように家康の視線もそこに注がれる。

自分を倒した男の名を、政宗は半兵衛から教えられていた。
石田三成。
おそらくもう二度と忘れることのない名前。

「アンタ、あの男の知り合いか?」
「…ワシは、友人だと思っている」
「そうか」

思ったよりも穏やかな声に、家康は逆に不安を覚えた。
政宗の気性からすると、
再戦を望み、名誉挽回に燃え上がるのではないかと思ったのだ。

政宗はふうーっ、と長く息を吐いた。

「わかっちゃいたが…自分が弱いと
こうもはっきり思い知らされちまったか」

「独眼竜?!」
思いがけない言葉に家康は咄嗟に政宗の肩をがしっと掴む。
「何を言うんだ!
お前は充分強いだろう?!」
「本当に強かったら刀を六本も持ち出しはしねぇ。
力のなさをカバーしてたんだ」
「だが基本的には刀一本での戦いだろう?
それに実力がなくてはあんな戦い方などできまい!
ワシはお前の多彩な技に感心しているんだ」
「技、ねぇ」

政宗はひょいと肩を竦めるついでに家康の手を退かした。

「そうだな。小細工を使い分けて誤魔化し切り抜けちゃ来たが
それもオレより強い小十郎達がいたからこそだ」
「忠勝だってワシより強い。
ワシがここにこうしていられるのは忠勝のお陰だ。
だがそれがどうした!
戦場を生き延びる。
それも強さで、国主としては大事な―っあ」

家康はハッっと口を押さえる。
代代国主を務めてきた家に産まれた政宗がそれを肝に銘じていないわけがない。

政宗は静かに微笑んでいた。
だがその内には痛みがあると、わかってしまう。

生き延びたのは偶然。
生命を取られてもおかしくない状況だった。

「殺され損ねちまったな。
生き恥を晒さねぇとならねぇのか…あの山猿の元で」
「独眼竜」

家康は思い出した。
政宗の元を訪れた理由を。

「何故、秀吉公はお前を此処に?」
「オレも知りてぇ。
あの男とは殆ど接点なんざなかったんだ。
だってのにあの男はなんだってオレを―」
家康の質問に政宗は頭を振り、疑問を口にしかけてぴたりと止めた。

「お前を?」
気になって続きを促すが
「なんでもねぇ」
政宗はふいっと顔を逸らす。
その頬が、朱くなっているように見えた。

まさかとは思う。
だが完全に否定は出来ない。

家康は昔から政宗に憧れていた。
それは、同じ国主としての、同じ武将としての在り方だけではなく。
秀吉が家康と似たような想いを抱いたとして、不思議だとは思わない。

本人が言うように、圧倒的な強さを具えている訳ではない。
だが、えも言われぬ魅力があった。

家康はぽり、と首筋を掻いた。
自分の顔に熱くなっているのがわかる。
心の底に沈めていた思慕が浮上し政宗を意識してしまう。

眸を閉じ気持ちを落ち着かせて、気分を切り換えた。

「ワシも小さかった時分、幾度か拐われた事がある。
お前とは違いワシ本人ではなく忠勝が目的だったようだが。
その度に忠勝が助けに来てくれた。
お前の事も、きっと片倉殿が伊達軍を率いて助けに来るだろう。
信じて待っていてやってくれ。
ちゃんと、生きて、な」
「…家康…」
背筋を伸ばし微笑みすら浮かべる家康に政宗は驚く。

「軽々しくそんなこと口にするな。
何処で誰が聴いているかわかんねぇんだ。
アンタの立場が悪くなっちまうぜ?」
渋い表情で窘めるが、
「構わない。
ワシはお前が好きだ。
ここにいる事でお前らしさが損なわれることをよしと思えん」
家康はにこりと笑い返し
「本気で望むならば、
ワシがお前を仲間の元に返してやっても良い」
更にはそんな事まで口にした。

「んな事したらアンタは…!」
「一蓮托生だ。独眼竜。
だがお前が此処に居ても良いと言うならば今の話はなかったことにしてくれ」
「オレは…」
「すまない。余計な事だな。
兎に角今は、傷を治すことだけを考えれば良い」

ぺこりと頭を下げ踵を返した背中に
「……今の話、オレがアイツらに告げ口するとは思わないのか?」
政宗は問わずにはいられない。
軍を率いる立場の者が
易易と口にして良い類いの言葉ではないのだとわからせたかった。

振り向いた家康が返したのは、妙な自信に溢れた
「しないさ。お前は」
という断言だった。

「なんでそう言い切れる?」
「お前は自分に向けられた厚意を踏み躙るような真似はしないだろう?
それに」
「それに、なんだ」

「自惚れだと怒られてしまいそうだが…
この先どうなるかはわからないが、少なくとも今は、
お前は秀吉公達より
ワシの方に好意を向くてくれているだろうかならな」
「……」

「違ったか?」
子供のような口調で、だが根拠に基づく力強さを感じさせる。
政宗はふっと息を洩らした。
笑みと共に。

「残念ながら、違わねぇな。
少なくとも今の段階では」
「そうか!」

嬉しそうに、はにかむように笑う。

政宗は、
重く澱んでいた気持ちが軽くなっている事に気が付いた。
理由を探る必要はない。
それは間違いなく家康のお陰だ。

「THANKS」

だから唇を動かした。
聴こえていても意味はわからなかっただろう。
だが、音にはしなかった。


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小さい頃から家康→政宗だといいなー的な。

2の忠勝ルートを混ぜても大丈夫だったろうか。
今川さんとかザビーに、とかだったら平気かな。

劇場版で家康と政宗が初対面だったらそれはそれで楽しそうだったんだが
筆頭「家康」って呼んでた気がするのでそれは無いかなー。残念。

                                【20110626】