日就月將 壱

 



※ 蒼天の霹靂  のその後なので読んでないと話が通じないと思われます ※

 

 

 

政宗が元の世界に還ってからというもの
元就は自分が思った以上に気落ちしていることに気付いていた。

短期間であったとは言え
一つ屋根の下二人きりで暮らしていたのだ。
元来人を寄せ付けない性格の元就が、である。

だが想い出を共有した二人の友人の前ではおくびにも出さない。
片方が恋慕していたのに気付いていたからと言う事もあるが、
そこで遠慮して身を引く元就ではない。

ただ単に、認めたくないだけだ。
人との関わりで心乱された自分を。
つまらないプライドだともわかっていたが
こればかりは直しようもない。

政宗が去り再び家事を全て自分でこなすことになり
昼の休診時間中に夕食の材料を買って戻ると
元就の病院の前で争う二人組の姿があった。

「こんなとこ連れてきてどーすんだ?
何の用もねーだろ」
「ですから一度精密検査を受けられるべきですと!」
「why?
どこも悪いとこなんてないぜ」
「雷に直撃されて五体満足な訳が御座いませぬ!
御自分は気付いておられないだけかと」
「どっか悪いとこがあって欲しいのか?」
「違います!
そうでないと安心したいのです!」

明らかに年齢が上の青年―おそらく元就よりも歳上だ―が
年下の青年に対し敬語を使い遜っている。

その年下の青年の見た目と声に、
覚えがあった。

「心配して当然でしょう!
いきなり小学生でも知っている歴史を間違えたのはどなたです?」
「っあれは―記憶が混乱しただけだ!」
「徳川幕府を伊達幕府だなどと、いくらお名前が同じでも―」
「政宗?」

会話を遮ってしまうとわかりながら、思わず名を呼ぶ。
いくら元就とは言え見知らぬ相手にはそんな無礼な事はしない。
だが。

「…モトナリ」

青年は呆然と、名を呼び返した。
両の眼で見つめて。

そう。
その「政宗」には両眼があった。

「…政宗様。お知り合いですか?」
「ah、知り合いって言うか―」

目上の人間を呼び捨てにするなど、という批難が含まれる声に、
政宗はびくっと身を竦ませる。
厳格な教育係かなにかなのだろう。

元就はそちらに向かい軽く会釈をした。
「邪魔をしてすみません。
ですがうちの前で揉めているようでしたのでつい。
私の診療に何か問題があったのかと心配で」

その言葉に、歳上の青年ははっと直立不動になり
「貴方の病院でしたか。
実はこちらに越して来たばかりで。
知り合いから腕の良い先生がいると教えられて来たのですが…
お騒がせして申し訳ございません。」
そう言うと深々と頭を下げた。
根は悪い人間ではないようだ。

「…ところで政宗様とはどのようなお知り合いで…?」

やはり気になるのはそこであろう。
政宗を窺うと、縋るような瞳で元就を観ていた。

元就は二人に向け軽く頷いて見せた。
「怪我をした彼を私の知り合いが見つけ、応急処置をしたことがあります」
きっぱりと言い切った。

「…いつそのような…?
政宗様はこちらに来てまだ三日で
着いた当日には雷騒動があったと聞きました。
そして次の日は丸一日眠られて、
その次の日―昨日は大人しくしておられたと」

ですよね、と確認するように政宗に尋ねる。

「…小十郎。お前は今日来たばっかで全部又聞きだろう。
口止めしてたが、昨日この辺彷徨いてたんだよ。
で、診て貰って、そん時に雷に打たれたって相談をモトナリ…先生にしてて
問題ないって言われた」
「本当ですか先生?」
「そうだ」

なんとか小十郎を納得させられるように口裏を合わせることが出来たようだ。
呼び捨てしあっている理由にはなっていないのだが。

「でしたら、その分の診察代を今払わせて下さい。
診察券も作っていただいた方が後に役立ちましょう、政宗様」
「…そ、だな。
甘えちゃ悪いよな。
小十郎、ちゃんと報告しなくて悪い」
「いえそのような」
「けどモトナリ…先生の病院だってわかったから付き添いは要らねぇぜ」
「何を仰います! この小十郎もご一緒に!」
「子供じゃねーんだ。独りで充分だって」
「しかし政宗様は不慣れでいらっしゃる筈」
「ご安心ください」
二人の言い合いに、またも元就が割って入る。

「先日も診させて貰いましたが
政宗君はしっかりしたものでした」
「そう…ですか」
「そうです」

「…わかりました。
政宗様、保険証と財布は?」
「ah、大丈夫だ。ちゃんと持ってる。」
言いながら鞄から出して見せる。
小十郎は安心し
「では先生、政宗様を宜しくお願いします」
改めて元就に頭を下げた。

未練がましく何度も振り返りながら去っていく小十郎を、
政宗は小さく手を振り、貼り付けたような笑顔で見送った。

隣に立つ元就から注がれる、強い視線を感じながら。
 

                                                                  【弐】

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そんなわけで微妙に匂わせていたように?
現代篇での続きは元就×政宗になります。よ。

公に続けていいのか不安だったのでこっちにぶっこんでみた。
 


                                                               【20101014】