日就月將 肆

【壱】  【弐】  【参】     

 

 

「政宗が現れた」

元就からそう連絡を受けた元親の反応は微妙だった。

佐助の政宗への想いが恋慕であると先に気付いたのは元就であったが
元就の政宗への複雑な想いに元親は結構早くに気付いていた。

政宗が滞在していた期間の最中には。

佐助のそれが尊敬や敬愛ではなく恋愛的なものであると知ったと同時に
元就の行動に疑念を抱いた。

あからさまな程の邪魔をしているのは、
よもや元就にも佐助と同じ想いを抱いているからなのではあるまいか。

だから尋ねたのだ。
「お前も政宗が好きなのか」
と。

そうであるならば元親は中立でいようと思った。
二人とも元親にとって大事な友人である。
付き合いの深さと長さでは元就の方が上ではあるが
どちらかに肩入れするつもりはなかった。

それに、一人は自覚がなく
一人はそんな事は思いもよっていないだろうが、
男だけの三角関係に口や手を出したら馬に蹴られるだけでは済むまい。

だが元就の返事は「否」だった。

「特別な友情は強く在るが愛情は抱けない」

人を救う生業を選んだ元就は
人を殺し、殺される覚悟を持つ政宗に対し少なからずわだかまりがあった。

敵を多く抱えた戦国の世の人間だから仕方がないのだが、
と元就は笑った。
自嘲するように。

現代にいる間はそんな事態は起こらず、友と思える。
そもそも預かり知らぬ過去と未来の人間同士では
関係を発展させたとて不毛。

そう語る友人に、元親は難儀な奴、と思い
だが一方でらしいかもな、という納得もあった。

無駄に悩むぐらいなら
好きなら好きで理由だとか理屈だとかはほっといてしまえばいいのに
それが出来ずにいるのが。

だから政宗再出現には素直に歓べなかったのである。
元親本人は政宗の事をいたく気に入っていたにも関わらず。

だが、受話器から聴こえてくる元就の声音は
わかりづらいながら浮かれているように感じられて、
元親は吹っ切れたのか? と首を傾げる。

『貴様は我の葛藤を知っていたであろう。
故にわざわざ教えてやったのだ。喜べ』
「いやまあ嬉しいけどな。
…佐助に真っ先に報告すべきだろ」
『あやつに教えてやる義理などないわ』
「おいおい」
『否。戻ってきてからでなくてはややこしい』
「戻る? あいつどっか行くのか?」
『うむ。
政宗の世界へ』
「そりゃまた…
ちゃんと還ってこれるのかよ?」
『政宗の話ではな』
「…どういう事だ?」

ここでようやく元親は
元就から同じ世界に生きる政宗の事情を聴いた。

「じゃあ佐助にはまだ知らせてないのか」
『余り知らせたくもないが。
またあの政宗に逢えるのであればあやつにはそれで満足してもらわねばな。
今回ばかりは譲る気は微塵もない。
我が好いていた部分を残し
二律背反を生じさせる業を持たない政宗が我の前に現れたのだ。
みすみす逃す手はなかろう』

饒舌なまでの熱弁に元就の本気を見て
「…ま、頑張れ」
元親はそうとしか応えられなかった。

元就を応援するのは果たしてその「政宗」のためになるだろうか。
全力で距離を置くように忠告してやった方が良いのではないか。

元就の病院の前で「初めて」逢った政宗が
葱が覗いた買い物袋を持っている姿を観て
元親は生まれてから今までしたことのなかった苦悩を憶えた。
 

                                                     【伍】

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元親の事情。
元就は「伊達」政宗に対しては面倒臭い人でした。

…本来ならそういう時、
人として許せない部分があるんだけど恋しちゃったんだし仕方がない、
になるべきが、元就は逆だったのですよ。

                                         【20101024】