日就月將 陸


【壱】 【弐】 【参】 【肆】 【伍】  
 

 

 

政宗の作った夕飯を三人で摂る。

時間もなく、
手っ取り早く作れる具沢山の栄養のあるもの、
という事で豚汁が中心で
おかずは焼き魚ぐらいしか出来なかった。

本当は鍋物をしたかったのだが季節も季節であったし
元就の家には三人分を作れる鍋がなかったことを思い出したのだ。

それでも元親はおお、と感激している。
「芋煮ってやつか?
そーいやうちの本社は仙台だったか。
じゃあアンタも」
「ん。出身はそっち。」
「だからこそ名を貰ったんだろう」
元就の言葉に政宗は頷く。
「うちの地元はほんっと政宗公大好きだからな。
良く名前負けだって言われてたぜ」

それは元就も同じだった。
元親は自分の名の由来を知らなかった事からすると
そんなことはなかったようだが。

「それが記憶を受け継ぐのだから不思議なものよな」
「欠片だけだけどな」
「じゃあ何でこっち来たんだ?」
元親の素朴な疑問に
政宗は「ah」と苦虫を噛み潰したような表情になる。

「…俺が帰ってきたら会社がでかくなり過ぎてて
地元はいづれーって思って逃げてきた。
こんなとこまで支社があるとは思わなかったぜ」
「支社があるからこそ家族が許したのだろう」
「モトナリの言う通りだよな…
しくったぜ。
小十郎もついてきちまうしよ」
「こじゅーろー?」
初めて聴く名前に、元親は「誰、つか何だ?」と訊き返す。

一度見かけていた元就は
「政宗のお目付け役…だな?」
と確認がてら尋ねた。
政宗はこくんと頷く。

「YES。
史実の政宗公の重鎮と同じ名前だからって
役目押し付けられたかわいそーな奴」
「…可哀想?」

思い返し、
元就はそれはないだろう、と心の中で否定した。

あれは、好きでやってるとしか思えない程の過保護っぷりであった。

「今日の事はその小十郎サンとやらには言ってきたのか?」
「こっちで出来た初めての友達と
一緒に夕飯喰って交流深めるって言ってきた」

嘘じゃないだろ、と嘯くが
そんな言い方をしている事自体、
後ろめたさを感じている証拠だろう。

その小十郎も、
まさかその友人が同級生ではなく
食べる夕食が政宗の手料理だとは思ってもいないだろう。

「ずっと隠しておくつもりはねーけど
何かあると跡継ぎがどーこー煩くてな」
溜め息まじりの言葉に、元親は
「その事なんだがよ」
と行儀悪く箸を上げた。

「後を継ぎたくなってことは
なりたいものでもあるのか?
なら話はわかるぜ」
「なりたいもの…」
訊かれ、政宗は唇に指を当てる。

「ah、そうだな。
定番だけど」
「定番?」
眉を潜める元就に、
政宗は笑い返した。

照れを含んた、朱い顔で。

「元就の嫁サン、
とかな。」

ぶふぅっ。
「っげほっ、っは、」
飲んでいた味噌汁を、
元親は盛大に吹き出し、
元就は気管に入れて噎せた。

「だ、大丈夫か二人とも?!
悪い、軽いJOKEだったんだが」
予想以上のリアクションに、言った政宗の方が慌てる。

「じょ、冗談…かよ」
「そのような冗談は好かぬ」
元就は顔を背けると
「馳走になった」
と空になった食器をシンクへ持って行ってしまった。

「…怒らせちまったかな」
「いや。ぐっじょぶだ政宗。
あんな元就を見れる日が来るとは」
しょんぼりする政宗に、
元親はしゃきーんと親指を立てて見せる。

実に良い仕事だ。
元親ではなく元就の名前を出したあたりが。

本音が含まれていたと気付かれず、
政宗は安心したと同時に
ほんの少し切なくなる。

「じゃあ結局やりてーことってのは別にねーのか?」
「はっきりとは。
けど食い物関係の仕事やりてー、かな。
経営じゃなくて、自分で作る方」
「おう。そりゃ納得だな。
向いてると思うぜ。」
「thank you」

そんな話をしていた二人は、その頃
戻ってこない元就が頭を冷やすのに必死になっていたとは
露とも気付かずにいた。

そうと知っていれば政宗も無駄に胸を傷める事もなかったのだが。


                                    【漆】   

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

ベタネタは書いてて楽しいよね

                                                   【20101031】