日就月將 捌

 

 

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成り行きで、なし崩しのように元就の家に泊まることになってしまい、
政宗は目を回しそうな程混乱していた。

政宗程ではないが、元就もまた。

頼みの綱の元親は「今日はちと用があってな」と
早早に立ち去ってしまった。

元就はその嘘に気付いていた。
なにせ元親がこの界隈に現われるのは元就の家に来る時ぐらいだ。
珍しく気を利かせた友人の気持ちを尊重したが
無理にでも連行してくるべきだった。

先日のようにリビングで対面に座ったはいいが
妙に気まずい。

だが話すべき内容はあった。
口火を切ったのは政宗の方。

「小十郎が俺の義兄だってなんでわかった?」
「詳しい間柄までは知らぬ。
貴様はいつ知ったのだ?」
元就は質問に応えず質問を投げ返す。
「気が付いた時にはもう」
政宗は素直に応えた。

話してしまいたかったのだろう。
誰にも訊けず、話すことも出来なかった事実を。

「全部証拠とかはねーけど
俺なりにこれが真相なんだろうなってのがある」
と前置きをし、
話し始めた。

「小さいときから小十郎の―義兄さんの存在は知ってた。
周囲のやつらが話してたからな」
「人の口に戸は立てられぬと言う事か」
「父さんが結婚前に作った子供らしい。
小十郎の母さんは身分が低いとかって
アホらしい理由で結婚させて貰えなくて、
父さんの親から一方的に慰謝料渡されたとか何とか。
俺の母さんが、俺を産む前―腹に宿してたってわかった後に
小十郎の母さんが亡くなって
そん時に小十郎の存在が発覚して
父さんが後見人として引き取った。
父さんの子だとは認めず明かさずって条件で。
時代錯誤だけど本当の話らしいぜ?」

政宗と同じ家では暮らしていなかったが、
小十郎が高校を出るとなった頃には
若いながらも精神的な強さと有能さを備えているのは周囲の目からも明らかで
父親の会社―本社に即戦力として雇われ。

だがそれをよしとしなかった政宗の母が政宗の守役とさせて、
それで顔を合わせた。

名前は知っていた。
政宗の名は、義兄である小十郎の名があったからこそ、
母親が地元の今なお愛される歴史上の人物のその主の名を
自分の子に付けたのだ。

間違っても、我が子を差し置き小十郎が跡を継ぐ事のないように。

そうとしか思えない。母親の、小十郎に対する態度を観る限り。
父親が小十郎を重宝している分、一層溝は深まっている。

「俺は父さんの跡を継ぎたいなんてちっとも望んでないし
能力も人心掌握力も、
絶対小十郎の方が上で、向いてる」
「あちらも政宗に対し似たような事を思っているようだが」
「んなわけねーのにな」
「…それには同意しかねる」

人を統べる潜在的な魅力は政宗の方が上だろう。
それだけでは大会社の社長は務まらないとしても。

有能だというあの義兄が補佐に付くならば問題はない。
むしろ理想形ではないだろうか。

カリスマと言うものは後天的には付かない。
元就はそう思っている。
本人の努力で周囲にそう思わせるならばそれは才能。
本当のカリスマとは先天的なもの。
意図に関わらず発露されるものの事だと。

政宗は話し終えて幾分すっきりした表情になると
「で」
と身を乗り出す。

「元就は何で小十郎が俺の義兄さんだってわかったんだ?
わざわざ調べたわけでもないだろ。
かと言って俺達全然似てるとこなんてねーし。
何でだ?」
「貴様が血縁でないものと二人で暮らしているとしたら
腹が立ってたまらぬ」

小さな声で早口で告げられた言葉は、
聞き取れたが意味が解らなかった。

「…pardon?
えっと悪ぃ。解説してくんねぇ?」

「あれほど包み隠さず溺愛しているあの男と二人きりで暮らすことを
貴様の親が赦していると言うことは
問題ない相手なのだろうと思ってな」

「…hey元就、つまり…?」

つまり、推理以前だ。
話の流れからこちらでは二人暮らしらしいとは確信が持てたが
血縁に関しては。

「希望的観測を含めた勘だ。」

しれっと吐き出された言葉に
政宗は頭を抱えた。

「…信じらんねぇ…
違ってたらどーするつもりだったんだよ?
とんだ赤っ恥じゃねーか」
「誤魔化し様など幾らでもある」

それよりも。

然り気無い元就の嫉妬発言を
政宗は完全にスルーした。
頭の中はそれどころではなかったのだろうが、
計算が狂う。

湾曲なアプローチで距離を縮める策は合わないか、
と元就は嘆息した。

直球で口説くのは性に合わないのだが
背に腹は変えられないだろう。

                                                     【玖】
                                             

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なきゃないでもいいかなーと思ってた小十郎と政宗の関係篇。
番外篇的な内容なんだけど本篇としとくべき内容とも思えたので先に。

…お陰で佐助が帰ってきてからじゃないと話進められない、が大嘘に…


                                              【20101107】